The New Tradition/The Jackie Mclean Quintet
(Ad-Lib Jubilee-Jackie McLean)
(October 21, 1955)
・パーソナル
- Donald Byrd (tp -1/5)
- Jackie McLean (as)
- Mal Waldron (p)
- Doug Watkins (b)
- Ronald Tucker (d)
・収録曲
- It's You Or No One
- Blue Doll
- Little Melonae
- The Way You Look Tonight
- Mood Melody
- Lover Man
・詳細
マクリーンの初リーダー作品です。
ここでのマクリーンは、「It's You Or No One」から、さわやかに飛ばしますが、全編通して一曲ごとに構成を練り上げるようなことはしていません。
普通、やっとのことリーダー録音ができるような、いよいよ世に出ようかといったとき、「少し整理して自分の魅力をふんだんに。」とやりそうに思いますが、マクリーンは、そのあたり何も考えていません。そのあたり、このアルバムの最大の魅力なのですが、そのあたりの話の前に、同時期の、他のアルト奏者のアルバムと聞き比べてみると、とても興味深いです。
このアルバムは1955/10の録音で、似た日付のものをいくつかあげると、
・Charlie Mariano 「Charlie Mariano」:1955/6
・Phil Woods 「Woodlore」:1955/11
・Gigi Gryce 「Art Farmer Quintet Featuring Gigi Gryce」:1955/10
などがあります。
Charlie MarianoとPhil Woodsは、ワンホーン作品、Gigi Gryceは、Art Farmerとのtp/asの2ホーンです。このアルバムも、Donald Byrdとのtp/asの2ホーンで、録音日も同じ日なので、聞き比べても面白いです。
アルバムの完成度としては、この三人とマクリーンを比べると、ダントツにマクリーンのアルバムはひどいです。
マリアーノは「Smoke Gets in Your Eyes」などで、フィル・ウッズは「Be My Love」などで、テーマも、アドリブソロも、十二分に、それはそれは練り上げられた、迷いのない聴いていて安心感を感じることができますし、Gigi Gryceは、アート・ファーマーと共に、すでに王道ハードバップの雰囲気を醸し出しています。すでに各人の「○○ワールド」が展開されます。
たいして、マクリーンは、
「そんなことをまったく構成など気にしていない。」
自分らしいテーマ解釈とか、アドリブソロでのコーラスごとの展開のさせ方など、まったく練られている気配がありません。自分のリーダー作品、ましてや「初リーダー作品」にもかかわらずです。
ここまでは、客観的にこのアルバムを聴くための前置きです、散々前置きでこき下ろしていますが、ここからすべてが逆転します。
ちなみに、チャーリー・パーカーはこの録音の一年前にいなくなってしまいました。そしてマクリーンは、初リーダー作品にもかかわらず、自分にスポットライトを当てるような形の演奏(マリアーノやフィル・ウッズのように。)を行いませんでした。
推測するに、マクリーンは、パーカーのフレーズだけではなく、音楽に対する姿勢に対して、強い憧れを持っていたのではないかと思います。
同時期の他のアルト奏者を聴くと、パーカーのフレーズを拡大していき、その延長線上に自分のスタイルを確立しているのに対し、マクリーンは、深追いしないというか、自分の中にあるメロディーと、パーカーのフレーズを、同じ土俵に乗せ、両者を切り替えていくような手法をとっているように感じます。また、事前に作品をしっかり練りあげ、作り上げることより、パーカーのように「その場で何とかできる、俺最高。」的な、アドリブマスター的なかっこよさを追及しているように思います。
同じパーカーマニアのフィル・ウッズとくらべ、ソロ全体の構成を見てみてもアプローチの違いが顕著で、それが又その人らしさになっています。
フィル・ウッズの特徴は、同じフレーズや、同じ音形を繰り返し吹いて、独自のドライブ感を出していますが、まさに、普段こういう練習をしていたはずです。パーカーのひとつのフレーズをピックアップし、まずニュアンスをコピーして、それをいろんなコードに対応させるといった、まさにパーカーフレーズの延長線上にあるアプローチです。
たいしてマクリーンは、パーカーフレーズはそのまま吹きます。パーカーフレーズを拡大させません。もろ「パーカーフレーズ」です。難しいフレーズはコピーしません。
そして、マクリーンのアドリブの最大の特徴が、
「コーラスごとの構成が大体一緒」ということです。
フレーズどうのといったことより、休符、いわゆる息継ぎするところが大体決まっています。吹くところ、吹かないところをあらかじめ決めて、自分のメロディーか、パーカフレーズか、どちらかをはめていく、といった大きな流れでアプローチしています。その結果、こじんまりとした詰め込む形のソロにはなりませんが、やはり「マンネリ」の危険がはらんでいます。フィル・ウッズのような、同じフレーズを続けて吹くことは避けられますが、「来る」と思ったところに、見事に入ってきますし、「終る」と思ったところで見事に終ります。大いなるマンネリです。
これは、ずっと続くマクリーンのわかりやすいクセなのですが、おそらくこのアルバムでは、このクセが、ポイントになっているように感じます。
メンバーが
Jackie McLean (as)
Donald Byrd (tp -1/5)
Mal Waldron (p)
Doug Watkins (b)
Ronald Tucker (d)
でやってますが、最大の注目点は、
ノリが5人共「ビッタしシンクロしている。」
これに気づくまでは、正直、特有のリバーブのかかり方など不満に感じることが多いアルバムでした。
まず、ドラムとベースがビッタシとグルーブしているのはもちろんですが、ピアノもフロントも、驚くほどまったく同じグルーブです。結果、ピアノのコンピングやドラムのフィルなども、フロントの邪魔をせず、来るべきところにビッタシ入ってきます。そうやって聴いてみると、マクリーンも、ドナルド・バードも、「独りよがりなソロをしない。」
レイドバックなんて皆無ですが、フロントの聞かせ方でリズム的にみて、正直二人とも、えげつないことやってます。シンバルレガートと8分音符のウラのタイミングさえビッタシあっています。しかし、しっかりとフレーズを歌わせています。
ノリ自体は少しルーズなMal Waldronのノリの影響が強いのかと思いますが、こんなにビッタしシンクロしているアルバムは少ないと思います。先に書いた、「マクリーンのマンネリ」は、実はバックを尊重し、オカズの場所を明確にするための、戦略のようにまで感じます。
この、少しルーズな、かつ、ある種軍隊的でもあるシンクロ感がクセになるアルバムです。また、マクリーンの卓越したビート感覚(リズム感覚とは少し違った)が満喫できるアルバムでもあります。そりゃマイルスが使うだけのことはあります。
パーカーのように、サックスを「ビートをドライブさせる楽器」として扱うマクリーンが、ここにいます。
(追記)
紹介した三人のアルバムを紹介しておきます。是非聞き比べてみてください。
・Charlie Mariano 「Charlie Mariano」:1955/6
パーカーと、アート・ペッパーを足して二で割ったような、得した気分になる人です。軽快に歌いまくっています。
・Phil Woods 「Woodlore」:1955/11
「ウデウデ8分」や、ごり押しのリプレイフレーズなど、ウッズ節が満載。ややソフトに吹いているので、とても聴きやすいアルバムです。
・Gigi Gryce 「Art Farmer Quintet Featuring Gigi Gryce」:1955/10
ソニー・レッド系のノリのGigi Gryceが静かに燃えています。ハードバップの雰囲気は、Philly Joe Jonesの仕業でしょうか?。